2026-02-18

日本発の遺伝子治療薬が世界へはばたく。アンジェス創業者・森下竜一らの不屈の挑戦

アンジェス株式会社 / 森下 竜一
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AnotherVoice

大阪府

アンジェス創業までの歩みと、根底にある強い志

はじめまして。
アンジェス株式会社の創業者であり、現在はメディカルアドバイザーを務めている森下竜一です。

私は現在、大阪大学大学院で臨床遺伝子治療学の寄附講座教授として研究・教育に携わるとともに、日本抗加齢医学会や日本認知症予防学会などの理事長も務めております。
かつては内閣府の規制改革推進会議委員や健康・医療戦略参与といった立場で、日本の医療政策に関わってきました。

これら多岐にわたる私の活動の根底にあるのは、「研究技術を社会に還元する」という視点です。
その一つの形が、私が創業したアンジェスです。
アンジェスは、遺伝子医薬のグローバルリーダーを目指すバイオ製薬企業として、遺伝子の働きを利用した新しいタイプのバイオ医薬品である遺伝子医薬の開発を行っている企業です。

今回は、私がアンジェスを創業した経緯や研究に懸ける想い、そしてこれらを通じて社会に届けたい価値についてお話していきたいと思います。

▼医師としてのルーツと、米国留学でのかけがえのない経験
私の家は、祖父母から3代続く医師の家系でした。私自身もその3代目にあたります。若かりし頃は医学以外の分野へ進むことも考えたこともありましたが、最終的には医師になる道を選び、大阪大学医学部から大学院へ進み、高血圧の研究に励んでいました。

転機となったのは、大学院卒業後の米国のスタンフォード大学への留学です。そこで私は、遺伝子治療の研究に従事することになりました。

当時取り組んでいたのは、心筋梗塞などの治療で行われる「風船療法(バルーン療法)」後の再発(再狭窄)を防ぐ遺伝子治療の研究です。
「風船療法」とは詰まった血管をカテーテルの先についた風船で内側から広げ、血流を回復させる治療法です。しかし、治療後も約3割の患者さんは再狭窄を起こしてしまうため、遺伝子治療を用いてこの再発を防げないかと研究に没頭したのです。

やがて、その成果が実り、米国で特許を取得することができました。
さらにはその特許をもとに、スタンフォード大学の恩師がバイオベンチャーを設立するプロセスを間近で経験する機会にも恵まれました。この「研究成果をビジネスの仕組みに乗せて社会へ届ける」という経験は、私にとって非常に刺激的で、感動的なものでした。

▼「足の切断から救いたい」1999年の創業に込めた決意
帰国後、私は大阪大学医学部大学院で遺伝子治療の研究を続け、一つの病気に着目しました。
それは、「閉塞性動脈硬化症」という、足の血管が詰まり血流の悪化で痛みやしびれを引き起こす病気です。
進行すると足の潰瘍や壊死を招き、最終的には足の切断を余儀なくされる深刻な状態に陥ります。日本でも年間数千人もの方が足を失っており、切断後の5年死亡率は多くのがん種を上回るという厳しい現実があります。

これに対して私は、「失われた血管を再生する」という、これまでにない斬新なアプローチで研究を積み重ねていきました。
そしてついに、日本で発見された「HGF(肝細胞増殖因子)」が血管を再生させることを突きとめたのです。その後、HGF遺伝子治療薬として実用化する研究を始めましたが、大学での臨床研究だけでは、救える患者さんの数に限りがあることに歯がゆさを感じていました。

この病気に苦しむより多くの患者さんに届けるためには「医薬品」として承認を受け、社会に実装しなければならない。

その強い想いから、1999年に大学発ベンチャーとしてアンジェスを創業したのです。

当時は、まだ遺伝子治療が一般的ではなかったため、他の治療法がない重症の患者さんに対象を絞り、新薬開発に向けた臨床試験を行っていきました。
そして、設立から3年後の2002年、大学発ベンチャーとしては初めての上場を果たしたのです。
研究を始めてから多くの月日が流れましたが、こうした瞬間を迎えられたことは、非常に感慨深いものを感じました。

▼情熱の礎となったスタンフォード大学の恩師の教え
医薬品の実用化に向けた治験の際、患者さんから向けられた言葉の数々が今も胸に残っています。
「薬になるまで自分の足はもつのですか?自分の足が残っているうちじゃないと、意味がないのです。」
「早く薬になってくれないと、治験に入れない私はどうしたらいいのですか。」

治験に参加できる方は限られており、それ以外の方は社会に薬が出る日を待つしかありません。
だからこそ、私たちは研究を「研究」のまま終わらせるのではなく、医薬品として世に誕生させることにこだわるのです。
それが実現すれば、より多くの方を救うことができるのですから。

この信念は、スタンフォード大学時代の恩師の教えに基づいています。
彼は度々、私にこう言い聞かせました。
「科学というのは、誰もが再現できるようにしなければならない。一部の場所だけで行われるものではなく、多くの人のためになる形にしてこそ価値があるのだ。」

この「科学の再現性」と「社会への還元」という考え方が、私の活動のすべての根底に流れているのです。


世界への挑戦。日本の医療技術を米国へ

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▼新たなる挑戦:米国という巨大市場
アンジェスは、このような歩みを経て生まれた会社であり、その想いは今も変わらず会社の根幹を成すものとして息づいています。

「HGF遺伝子治療薬」の社会実装への道のりは、非常に険しく困難の連続でした。しかし、私たちは決して諦めることなく研究開発を続けました。

そして長い年月を経て、2019年に国内初の遺伝子治療薬として条件・期限付き承認を取得することができたのです。これは世界で初めて「プラスミドDNA」を用いたHGF遺伝子治療薬の製品化に成功した例でもあり、医療の歴史においても大きな一歩になったと自負しております。

現在、私たちは米国市場への挑戦を続けています。
米国には、日本の10倍以上の患者数がいると言われています。より多くの方を救うため、アンジェスは当初から米国での展開を視野に入れていました。
米国では軽症や中等症の患者さんを対象に中間段階の治験を行い、非常に高い治療効果と統計学的な有意性を示す結果が得られました。そして、2024年に米国食品医薬品局(FDA)から「ブレークスルーセラピー(画期的治療薬)」の指定を受けました。
現在は臨床試験を完了し、米国での販売承認申請(BLA)に向けた最終局面に入っています。

この挑戦を強力に後押ししているのが、世界的な製薬企業であるベーリンガーインゲルハイム社です。同社との協業によって高品質な製造体制を確立でき、大きな前進を遂げました。

今回、米国で承認されれば、世界で初めて「日本発」の遺伝子治療薬が本格販売されることになります。
これは日本の科学技術力の証明であり、遺伝子治療という分野が成長産業の最先端を走っているということを示すものです。日本という国にとっても極めて大きな躍進となるはずです。
また糖尿病が背景とされるこの病気は、世界的な経済発展に伴い患者数が増加傾向にあり、将来的により多くの方に必要とされる薬になると考えています。

▼遺伝子治療の可能性:治療のあり方が変化する未来
長年、遺伝子治療の研究に携わってきましたが、かつて「夢の治療法」と言われていたものが、現在では治療法として広く知られるまで成長したことに、深い感慨を覚えています。

数年前、多くの方が新型コロナワクチンを接種したかと思いますが、これも広義の遺伝子治療薬の一つと言えます。
それまで遺伝子治療薬の接種経験者は世界でも数万人程度でしたが、新型コロナワクチン接種により、その数は数十億人までに広がりました。そうした意味で言えば、遺伝子治療は“一般的”になったとさえ言えるのかもしれません。

遺伝子治療薬の認知が進んだこともあり、アンジェスの米国試験では、日本の場合より軽症段階の患者さんを対象として治験が行われました。その結果は約1年で患者さんの8割ほどの潰瘍が治癒するという、極めて評価の高い結果を得ることができました。これは外科的手術に比べ、患者さんの身体的負担が圧倒的に少ないため、今後の治療のあり方を大きく変える可能性を秘めています。

世界では、新たな医薬品や治療法が次々に開発される一方で、日本ではまだ治療薬が販売されておらず、治療法がない疾患が数多く存在します。
アンジェスはグローバルを見据えた遺伝子治療医薬の開発や国内への治療薬の導入を推進し、新たな治療薬、治療方法を待ち望む方々の健康な暮らしの実現に貢献していきます。

▼研究開発の「核」:ゴールを見据え、やるべきことに果敢に挑む
私たちが革新的な技術を世に出し続けられるのは、常に「社会への還元」という「出口」 ――どのような医薬品として結実するかを見据えて、日々研究開発に励んでいるからです。

実験段階や理論上は可能なことでも、実際の医療現場では体の深部にある患部までどのように遺伝子治療薬を届けるかといった課題があるのです。こうした周辺技術の進歩も医薬品を誕生させるための重要な要素です。
その時点で技術的に何が可能で、医薬品として何が求められているかを的確に見極めることが、医薬品ベンチャーの成否を分けるポイントだと考えています。

私たちは、自分たちが取り組む必然性のない研究開発には手を出しません。
一方で、今まで誰ひとり挑戦していなかったとしても、自分たちの技術で実現できる可能性があれば、果敢に挑戦することを研究方針の中核としています。

実はかつて、大阪大学のチームとアンジェスは、共同で新型コロナワクチンの開発も取り組んでいました。
世界でコロナウイルスによる死者が増える中、ワクチン開発で日本では手を挙げる企業がありませんでした。海外のワクチン開発頼みで、いつ日本でワクチンが手に入るか、分かりませんでした。だからこそ私たちの技術を活用し、国産ワクチンを早く世の中に誕生させなければならないと考え、先陣を切ったのです。
残念ながら、かなり早い段階で私たちは治験フェーズに入ったものの、メッセンジャーRNAワクチンに感染予防効果は及ばず、開発を中止することを決めました。

それでも開発に踏み切った決断に間違いはなかったと、私は考えています。
私たちが先陣を切らなければ、国内の他の企業や研究グループが立ち上がることもなかったのではないかと思うのです。
自分たちの持つ技術が社会の役に立つのならば、リスクを恐れず、果たすべき責務を全うする。
これこそが、私たちの研究の「核」なのです。

実際の医療現場で救えるいのちは多くはありませんが、多くの人々の病気の治療や健康に貢献できることが何よりの喜びです。そして、一つの医薬品を生み出すことは、より大勢の方を救うことにつながり、それはこの仕事ならではの醍醐味だと感じています。


未来世代へのメッセージ —— 「やってみなはれ、続けてみなはれ」

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▼今後、実現したいこと
今後の展望としては、さらなる難病の治療薬の開発に注力したいと考えています。
現在進めているのは、「デザイナーズセル」の研究開発です。これは、幹細胞を活用して、患者さんごとに最適な治療を提供するオーダーメイド型の医療技術のことです。

例えば、脳梗塞治療などにおいて患部へ効率よく到達し、神経栄養因子を放出する幹細胞などを想定しています。
実は、HGF遺伝子治療薬が脳梗塞後の後遺症である認知機能障害や麻痺の治療に寄与するという有効な実験データがあるのですが、現時点の技術ではHGF遺伝子治療薬を頭部の患部まで直接届けることが物理的に難しいという課題があります。しかし「デザイナーズセル」が実現すれば、こうした壁を乗り越え、多くの治療困難な疾患を救う大きな一歩となると信じています。
10年、20年先の未来に向けて、私たちはこうした新しい医療技術の実現を目指して、着々と歩みを進めています。

様々なアイデアや気づきの源泉は、意外にも専門外の分野から得ることも多いです。
現在、日本抗加齢医学会の理事長を務めていますが、この領域には耳鼻科、眼科、皮膚科、産婦人科などあらゆる分野が包含されています。
専門外だからこそ、未知の技術や治療の考え方を発見でき、その中から自分たちの専門技術へ応用することも考えています。

また、医療以外の分野からも刺激を受けています。小説も読みますし、映画やドラマも見ています。最近では、「トリリオンゲーム」や「鬼滅の刃」も拝見しました。
多様な分野から、新たな知識や発想を得ることも大事だと感じています。

▼さいごに
私は、何よりも「次世代への教育」が重要だと考えます。
培った技術や考え方を継続させていくことこそが、社会への最大の貢献だからです。同じ志を持つ教授は、私以外にもいますし、次なる研究テーマに取り組む研究者たちも着実に育っています。

私が人材を育てる上で重視していることは、単なる「頭の良し悪し」ではありません。
それは、いわゆる「セレンディピティ」のような、価値あるものを偶然見つけ出す能力なのかもしれません。
頭の回転が速すぎると、研究を始める前から結果を予測し過ぎて、「所詮この程度だろう」と没頭できなくなってしまうことがあります。先を見通し過ぎて行動できない人よりは、慎重でありながらも勇気を持って実行できる人が、この世界には向いていると私は考えています。
それは、本来の素質や研究を通じて培っていく双方の側面が影響するのだと感じています。

実際、研究の結果はやってみないと分からない部分も多いのです。有効な実験データや試験結果が出ても、実際の医療現場で思い通りにいくとは限らず、予測できない事象が起こることが多分にあります。だからこそ、ゴールを信じて努力を続けることが大事なのです。

次世代を担う皆さんにお伝えしたいのは、「チャンスは誰にでも平等にある」ということです。
差があるのは、それを掴むか掴まないかだけであって、掴みに行かないことには何も始まりません。もちろんすべての可能性を追うことはできませんから、自分が「楽しい」、「仕事として取り組んでみたい」と思える分野を見極める必要はあると思います。
そして時流を読み、自分の行きつくゴール、そのために何をすべきか考えて行動するのです。コントロールできない外部要因もあるでしょうが、可能な部分は自分が主導するのです。そのためにも、まずは「やってみる」ことがすべての始まりです。

私自身、初めから医療の道を志した訳ではありませんでした。しかし、研究を始めてから、その興味深さに没頭し、偶然のチャンスも掴み取りながら、その時々で最適だと思う決断と行動を繰り返して、ここまで辿り着くことができました。

一方で、チャンスを掴んだとしても一定の苦労は必要だと考えています。
現時点で取り組んでいることが、将来的に役に立つか否かを判断することは非常に難しいことです。しかし、少なくとも将来の可能性の芽になりそうであれば、それがたとえ骨の折れることであっても、続けるべきなのではないかと思います。

人生100年時代、先は長いので短期的な成功や快適さばかりを追うのではなく、5年、10年あるいはそれ以上のスパンで物事の必要性や損得を考え、進むべき道を選択していくことが重要なのではないでしょうか。

研究も人生も、「出口」を見据え、現時点で何をすべきか熟考し、行動することが大切です。
それでも予測不可能なことは起こるでしょうし、成功するか否かは最後まで分かりません。だからこそ、自ら選んだ道でゴールを見据え、努力し続けることに価値があるのです。
私は、そんな挑戦する若い世代を心から応援しています。

そして私自身も、挑戦の最前線に身を置き続けています。
研究開発を通じて、皆さまの健康と医療技術の進歩に貢献し、日本の閉塞感を破る一助となれるよう、人生の時間を懸けて取り組んでまいります。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。


profile

氏名
森下 竜一
役職
メディカルアドバイザー

Introduction

企業名
アンジェス株式会社
所在地
大阪府茨木市彩都あさぎ7丁目7番15号
事業内容
遺伝子医薬のグローバルリーダーとして、革新的な医薬品開発に取り組むバイオ製薬企業です。
資本金
3,915,100万円
企業サイト
https://www.anges.co.jp/
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