はじめまして。
株式会社放送サービスセンター 代表取締役社長の南﨑 康貴です。
当社は1964年の創業以来、同時通訳機材の提供から音響・映像・照明のオペレーション、さらにはリモート通訳環境の構築に至るまで、会議運営を支える技術サービスを一貫して手がけてきました。
国内外の政府機関や国際機関、企業から高い評価をいただき、年間2,000件以上の国際会議や企業イベント、学術シンポジウムをサポートしています。
私の原点は、実は自然の中にあります。
22歳の頃から約10年間、埼玉県・長瀞でカヌーインストラクターとして活動していました。スーツを着て働く姿なんて想像したこともなく、祖父が創業した会社を継ぐなんて考えもしなかった。自然の中で、流れに身を任せ、ときに逆らいながら漕ぎ進む――そんな日々が、私の社会生活の始まりでした。
けれどあるとき、家族の事情がきっかけで、会社の手伝いをすることになりました。リーマンショックの影響や祖父の他界、会社の経営状況も重なり、父である2代目社長を支えたいという想いから、アルバイトとして会社に入ることを決めました。
平日は会社、週末はカヌーという二足のわらじ生活。そんな日々が約1年続いた頃、父から「アルバイトとして残るか、社員になるか」と問われ、私は正式に入社を決めました。
当時はまだ「継ぐ」という意識はなく、あくまで“家族を支えるため”というスタンス。しかし、会社の現場を知り、国際会議の緊張感を肌で感じていく中で、何か心境が少しずつ変化し始めました。
各国の首脳や要人が集うG7・G20のような会議では、空気が凍るほどの緊張感が漂っています。その場で一瞬の判断が求められる――
まさに、自然の中で生活していた世界。そこで私は、スーツ姿の“現場”にも、本気の仕事があることを知ったのです。
▼社長就任と、波乱のスタート
2019年5月、私は3代目社長に就任しました。 その年はG20大阪サミットが開催され、会社としても過去最高の売上を記録。未来への展望が広がっていた矢先、世界を一変させる出来事――コロナ禍が訪れました。
会議もイベントも止まり、海外との行き来も絶たれ、2020年には前年比8割減という大打撃。社長としてのスタートは、まさに嵐の中からの船出でした。
けれど振り返ると、この「未曾有の危機」こそが、私を本当の意味で育ててくれたのかもしれません。前例がない中での意思決定、組織改革、新規事業の立ち上げ……誰も正解を知らないからこそ、覚悟を持って舵を切れた。
社員とその家族を守る。それが私の中の不変の軸でした。反対意見もある中で、実行し、共に前へと進む日々。その過程で、組織の中にも少しずつ変化が生まれ始めたのかもしれません。
そして、新しい風を吹き込んだのは、若手社員たちでした。
変化を恐れず、果敢に挑戦し、自ら手を挙げる姿に、私は何度も心救われました。いくつもの失敗もあったけれど、それすらも糧にして立ち上がる。その姿勢が組織全体に波紋のように広がり、挑戦の文化が芽吹いていきました。
今では、当時先陣を切った若手たちがリーダーとして活躍し、次なる挑戦へとチームを導いてくれています。
当社の主力事業は、大きく2つ。
ひとつは、国際会議や多言語環境下での同時通訳システムの企画・運用。各国の要人が言葉の壁を越えて対話できるよう、通訳音声をリアルタイムで制御し、会議の円滑な運営を技術で支えます。
もうひとつは、ホテルやホールなどでの常駐オペレーション。結婚式や講演会、企業イベントなど、多種多様なシーンで、音や映像の演出を支えています。
コロナ禍を経て、私たちはリアルとオンラインの垣根を越える技術・サービスを急速に進化させました。東京オリンピックに向けて開発していた遠隔操作ソフトやアプリを応用し、オンライン会議への転換を実現。今ではコロナ以前を上回る業績を達成しています。
▼60年の歴史と、変わり続ける覚悟
おかげさまで、2025年で創立61年を迎えます。「同時通訳といえば、放送サービスセンター」――そう言っていただけるのは光栄であり、先人たちの積み重ねのおかげです。
けれど、私たちはそこに胡坐をかくつもりはありません。 技術革新が目まぐるしく進むいま、AIの進化、大手企業の参入など、業界の常識はすぐに塗り替えられてしまう。そんな時代に、過去の実績だけでは生き残れない。
だからこそ今、「育成」に力を注いでいます。
▼変化にしなやかに対応できる、強く柔らかな人材を
当社には、技術・営業・ロジスティクス・バックオフィスなど約90名が在籍していますが、目指しているのは「自ら考え、行動する人材」の育成です。
既存の外部プログラムに頼るのではなく、若手が“自分の力”を養えるよう、社内で試行錯誤を重ねながらオリジナル育成プログラムを構築しています。
私たちが大切にしているのは、「誠実さ」や「謙虚さ」といった人としての根幹です。 スキルや知識の前に、人間として信頼される力。それこそが未来を拓く鍵になると信じています。
当社の社是は「価値ある存在たれ」。
自分にとっても、他者にとっても価値ある存在であることを目指し、登るべき“はしご”を一人ひとりに掛けていくことが、私の使命だと思っています。
▼今後、会社で実現したいこと
これから実現したいのは、“発想する力”を持つ人材が育ち、そこから新たな事業が自然に芽吹いていくような組織です。
AI同時通訳サービスの実用化に取り組みつつ、「その先」にある価値を見据え、私たちは次のビジョンを描いています。社員の中から生まれるアイデアや新しい視点が、次の事業や未来のモデルへと繋がっていく。
そのためにも、私一人が前を走るのではなく、皆が考え、育ち、広がっていくような“土壌”をつくりたいと願っています。
▼さいごに
どんなに時代が変わっても、「誠実さ」や「謙虚さ」といった人としての根は、変わらない価値です。
その一方で、方法や手段は、時代に合わせてしなやかに変えていくべきだとも思います。
「価値ある存在たれ」という社是も、その精神はそのままに、辿り着く方法は常に見直し、アップデートしていくべきだと考えています。
私自身、就任当初は父の姿や“理想の社長像”にとらわれ、肩肘を張っていたかもしれません。けれど今は、少しずつ自分らしく、自然体で向き合えるようになってきたように思います。
もしかすると、そういった少しの変化が、社員同士の関係や組織の空気を変え、以前よりもやわらかく、風通しのよい会社になりつつあるのかと、そう感じます。
これからも、慢心、過信することなく、自分自身を常にアップデートし続ける経営者でありたい。
そして、築かれてきた価値を守りながら、変わるべきものは恐れず変えていく。そのバトンを、未来へとつないでいくことが、私の役目だと思っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。